こい
今回は自分の兄の結婚式なので私も主催側。
美咲さんのお友達と一緒に受付を任されていると、エレベーターからまとまって降りてきた親戚の中に春之の姿もあった。
結局ほとんど3年振りになる。
春之は36歳になっているはずだ。
でもやっぱり変わらない。
整髪料も何もつけていないやわらかい髪も、のんびりとした猫背も、ゆったり歩く姿も、どこもかしこも私の好きな春之だ。
「ありがとうございます。こちら席次表です」
久しぶりに会う親戚のおじさんおばさんに貼り付けた笑顔で型通りの言葉を述べる。
一番後ろに春之がいる。
それだけでもう落ち着かない。
「おめでとうございます」
やっぱり下手くそな右払いが並ぶ『水沢春之』の文字。
「ありがとうございます」
「あいちゃん・・・久しぶり」
「あ・・・うん」
顔が見られず伏せた視線の先で、席次表を渡す手が震えている。
私は今、人生で初めてやっと春之に真正面で恋をしている。
恋をしていいんだ。
思い切って顔を見つめると、春之は戸惑ったように笑っていた。
何か言いたくても何も思いつかない。
学校の話も、テレビの話も、今はできない。
そうしているうちに、後からきた人に押し出されるように春之は会場の中に入っていった。