こい


披露宴の間はゆっくり食事をする暇もなかった。
イベントとイベントの間を縫って、親戚のテーブルを回らなければならなかったからだ。
両親はというと、兄の職場関係の人や友人のテーブルを回っている。


「本日はどうもありがとうございました」

「あらあら!あいちゃんずいぶん大人っぽくなったのね。もう大学生だものね」

「はい。お祝いもたくさんいただいて、ありがとうございました」

「陽太君も結婚したし、次はあいちゃんね」

「いえ、私はまだまだです」

「え~?ちゃんと彼氏がいるって亜希子さんから聞いたわよ~?」

お母さん、知ってたんだ!
そしてまさか親戚にバラしているとは思ってもみなかった。

「おばさん!それは・・・」

こんなお祝いの席で「別れた」という単語を口にしていいのか一瞬躊躇った隙に、新郎新婦がお色直しで退場するとアナウンスが入った。
仕方なく一度自分の席に戻る。

両親も同じように席に戻っていたけれど、やはりこんな場で話す話題じゃない。


私はにこやかに退場していく兄と美咲さんを複雑な気持ちで見送った。




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