こい

隣を見ると、春之はソファーの背もたれに頭を乗せて仰向けになって目を閉じていた。


『あい、頑張れ』


言葉で伝えても本気にしてもらえないことはわかっている。
もう本物でも偽物でも恋でも執着でも、何だって構わない!

私はソファーに膝立ちになり、伸び上がって春之の肩に手を置く。
昔よりだいぶ大きくなった私は、いとも容易く春之に届いた。


━━━━━春之の唇は日本酒の味がした。


そう感じたのはほんの一瞬。
ビクッと大きく跳ねた春之に私ははじき返されてしまう。

春之が持っていたコップから水がこぼれ、私と春之の脚を濡らした。

「━━━━━あいちゃん!?」

夢や幻だと思われてなるものかと、今度は春之の頭を抱え込んで再び口づける。

伝われ、伝われ、と必死に念じながら。

残念だけど、キスひとつで春之の心を掴めるだけのテクニックなんて持っていない。
それどころか応える気配もない春之に、ぎゅうぎゅう押しつける以外できない。

どうしたらいいの?
どうしたら?

私が攻めあぐねている間に春之はあっさり私の手を掴み、身体を押し戻した。

「・・・あいちゃん、どうしたの?」

今まで見たことないほど驚いた表情で春之が言った。
酔いすら醒めたようだ。

「春之が好き」

たったこれだけのことで息が切れていた。
でももう引けない。
きっと今しかチャンスはない。

「春之が好きなの。ずっとずっと」

「え・・・彼氏は?」

春之にまで伝わってたんだ。

「別れた」

恵君とのことはこれ以上言葉にできない。
例え相手が春之でも。
何をどう言っても、きっとちゃんとは伝わらないから。

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