こい
春之、すごく驚いてたな。
当たり前だ。
親戚の女の子がいきなりキスしてきたら誰だって驚く。
もし逆の立場だったら。
親戚のおじさんがいきなりキスしてきたら・・・それはもう犯罪だろう。
笑って許されるのは幼い子どもだけ。
「あいちゃんはかわいいね」と許される時期はとっくに過ぎている。
子どもだったら許されて、また同じように一緒にいられただろうけど、戻れないし戻りたくない。
女として拒絶されたならこの方がずっといい。
ずっと願っていたはずのことじゃないか。
長い長い恋だった。
ずっとわからなくて、自覚したときには終わってて、知らぬ間に私の心を蝕み続けた。
どうしようもない恋だった。
いつも過去形でしか語れない恋だった。
時間をかければ何でも熟成されておいしくなるわけではなく、多くのものはただ腐って捨てられる。
私の恋も時間をかけて朽ちていくのだろう。
そっと扉を開けると中は薄暗かった。
美咲さんだけにスポットライトが当たっている。
花嫁からの手紙を読んでいる最中だったようだ。
涙声で一生懸命手紙を読む美咲さんにつられて、あちこちからすすり泣きが聞こえてきた。
私は自分の席に戻ってバッグからハンカチを取り出した。
お化粧が崩れるなんて考えずにゴシゴシと顔中を拭く。
ものすごくタイミングがよかった。
その日は私がどんなにひどい顔をしていても「あいちゃんももらい泣きしちゃったのねー」とみんな笑ってくれたから。
ただ一人、春之を除いて。
春之はずっと私から視線をそらしたままだった。