こい
10 くも
大学は隣の市にあって電車でも十分に通えたけれど、わたしは両親に頼んで一人暮らしをさせてもらった。
片道1時間弱ではあるが、電車の運行時刻なんかを考えると色々と不便なのだ。
・・・と、それは建前の理由で、実家にいれば何かにつけて本家に行かなければならなくなるから。
親不孝だとわかっていても、私はほとんど実家に帰らなかった。
たまに顔を見せるときも、何でもない日を選んで日帰りで自分の部屋に戻る。
そうしていれば春之にはめったに会わなくて済むのだ。
それでも大きな冠婚葬祭は免れない。
いつかは春之に会わざるを得ないだろう。
例えば私が結婚式をするなら、春之は絶対に呼ばなければならないのだ。
いつか誰かを好きになって、その人と幸せそうに笑う姿を春之に見せられるだろうか。
そんな覚悟はまだまだできそうになくて、それ以前に春之の顔をまともに見ることもできなくて、逃げ出した私は神社の境内でぼんやり座っている。
免れない冠婚葬祭、祖母の十三回忌法要だ。