こい


母には直接本家に行くと言ってあり、実際家の前までは行ったのだけど、怖じ気付いて逃げてきてしまった。

ブラブラと歩いてきた先にあの夜宮で行った神社があり、行く宛もなかったから久しぶりに来てみた。
実に約10年振りだった。


特にイベントのない日は誰一人いない寂しい場所だ。
社務所ですら呼び鈴で人を呼ばなければいけないほど。

お財布から100円を出して放る。
鈴を鳴らして、確か二礼、二拍手・・・

10年経ってもやっぱり何も願い事なんてない。
春之を忘れたいとも思わないし、会いたくないかと言えばそれも違う。


━━━━━神様、やっぱり私は春之が好きです。


知ってるよ、って言われそうだ。
しつこいよ、って。

願い事は・・・心の準備ができるまで、少しだけ居場所を貸してください。

一礼。




ちゃんとお願いしたので、堂々と脇の石段に座り込む。

のどかな小春日和。
きっと本家のあの客間には、ぽかぽかの陽だまりができているに違いない。
おばあちゃんはとても気持ちのいい季節に亡くなったんだな。


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