こい


住宅街のど真ん中にある神社なのに、ほとんど生活音が聞こえない。
真っ直ぐ正面にある鳥居の向こうは急な石段が下に伸びていて、空の続きが見えるだけだ。

そこに小さな丸い雲がぽつんと浮かんでいる。

あのゆっくり流れる雲が鳥居からはみでたら本家に行こう。

どうせ自分では決められないのだから、そんなきっかけに頼ることにした。


まばたきも忘れて雲を見つめる。
そうしていると、止まって見える雲もちゃんと動いているのがわかる。

雲が鳥居にかかった。
あと少しではみ出す。
そうしたら立ち上がろう。

じっとにらみつけていると、トントンと久しぶりの音が聞こえてきた。
石段を誰かが上ってくる。

頭の先が見えただけで、春之だとわかった。

上りきって息を切らしながらも春之は私を見てふわんと笑った。

「ああ、やっぱり」

さほど広くない境内を、春之は笑顔のまま真っ直ぐ私のところへやってくる。
私はその姿を他人事のようにただぼんやりと眺めていた。


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