こい
「じゃあ、俺でいい?」
春之の手が私の頬を流れた涙を拭いた。
息もできないくらい胸いっぱいになって、私は何度もうなずいた。
必死に伝えないと幸運が逃げてしまう気がして。
目をつぶっていたから、唇にふわっと触れた感触で逆に目を開けてしまった。
次の瞬間には春之の顔が離れていって、ようやく状況を理解した。
「やっぱりかなり背徳感があるね」
「背徳感って?」
答えはもらえずに今度はずっと深いキスに襲われる。
さっきのがおもちゃみたいに感じるほどの。
昔結婚式で見たあのやさしいキスをした人と同一人物とは思えない。
落ちる覚悟を迫るような強くて重いキスだ。
春之は私が思っている以上に大人で、男で、私はまだまだ子どもだったと思い知らされた。
ゆっくりと離れて、抱え込まれるように抱きしめられる。
「オムツを替えた相手とキスするって、ハードル高いよ。やめないけど」
「オムツ!?」
そんな話、聞いたことない!
「背徳感」の意味に愕然とする。
なんでそんなことになったのか。
知りたいような知りたくないような。
「じゃあ、春之って・・・私の・・・見たってこと?」
「うん。全部見たことある。もちろん赤ちゃんのときだけだけど」