こい
春之はさっき『18歳差は小さくない』って言った。
現在の私でさえ、私の記憶の中の春之よりもまだ若い。
私から見ると春之はずーっと大人のままだけど、春之は認識を大きく変えなければならなかったのだ。
「それじゃあ、私を女として見られないわけだよね」
「いや、女の子はどんどん変わるからね。高校生くらいだともう危なかった」
「高校生のとき告白したら流されたよ」
「あれを本気に受け取る勇気ないよ。自分の変態ぶりを受け入れるのだって時間かかったんだから。ようやく20歳になってくれて、少し気が楽になった」
ずっと「早く大人になりたい」と思って生きてきた。
でも大人だっていろいろ不自由で悩むんだ。
「心のままに生きる」なんて身勝手はきっと生涯できないのだろう。
「本当にただのおじさんだよ?」
「春之は春之だよ」
「給料安いよ?」
「元々期待してない」
「右払い多いけどいいの?」
「プリンターが使えるようになったから大丈夫」
春之がふわんと笑った。
間近で見ると、昔よりわずかに目尻の皺が深くなっていて、やっぱり春之もちゃんと年を取っていたのだと妙に安心した。
「そろそろ行こうか」と春之が手を差し出すので、迷いなく手を重ねた。
春之は私を引っ張って立たせた後、スルリと指を絡ませた。
あの日この場所でできなかった、恋人同士のつなぎ方。
春之は口数が多い方じゃなくて、考えていることもあまりよくわからないけど、もしかしたら全部覚えているんじゃないかと思った。
そういうことにして、私はきゅっと手に力を入れた。