こい
「〈お祝い事〉って何?」
最も重要であるはずの質問を、私は投げやりな気持ちでようやく口にした。
「水沢さんの家の春之君が来月結婚するの。式には全員で出席するからその時着るのよ」
「春之が?」
「あんたその呼び捨てやめなさい!『春之お兄ちゃん』って言いなさいって何回も言ってるじゃないのよ!」
だって春之は〈お兄ちゃん〉じゃないんだもん。
イライラした母に口ごたえするのはやめて、心の中で反論しながら自分の部屋に逃げた。
その後、父や母の会話から春之の〈およめさん〉は紗英さんという人だとわかった。
大学卒業後、春之は地元に戻って中古車販売の雑誌を作る会社に就職していた。
紗英さんは春之と同じ高校と大学の先輩だけど、4つ年上で直接学校で知り合ったわけではないらしい。
「ゼミのOG」という、幼い私には何度聞いても理解できない関係の人だった。
春之の話ならどんなことでも知りたかったのに、聞いても「ふーん」としか答えられない。
私はまったくピンときていなかったのだ。
春之が結婚するということが、どういうことなのか。
とにかくピンクの花柄で春之に会うのは嫌だなー、と。
ただそのことにだけ落ち込んでいた。