俺様作家に振り回されてます!
「それじゃ、行こうか」

次に先生に案内されたのは、二階にあるレストランだった。

窓際の席で海を見ながらフレンチのコース料理を食べる。“海老と野菜のテリーヌ”は濃厚な舌触りだし、“舌平目のソテー”はびっくりするほど柔らかい。“牛フィレ肉のボルドー風ソース”はソースが風味豊か。ミディアムボディの赤ワインと好相性だ。

「料理もおいしいし、景色もロマンチックだし。これなら桜刑事も落ちるかも」

私が食後のコーヒーを飲みながら言うと、先生は苦笑した。

「かも? 俺としては絶対に落としたいから、まだここでマキを帰すつもりはないよ」
「えっ」

帰るつもりだった私は驚いた。先生はすでに店員に合図をして、クレジットカードで会計をしている。

「ほかになにか……」

ためらう私の手を取って、先生が言う。

「ほら、まだ落ちてない」

だって、私は桜じゃないし! これ以上一緒にいたら、自分の気持ちを抑えられる自信がない!

先生はそのままエレベーターに向かった。

「どこに行くんですか」
「部屋」
「部屋って、先生が泊まる部屋?」
「ほかにどこがある? 原稿がほしいんだろ?」
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