俺様作家に振り回されてます!
先生は開いたドアからエレベーターに乗り込んだ。先生に続いて黙って乗ってしまい、私は下唇を噛みしめる。

卑怯だ。原稿を持ち出すなんて。

先生は知らない。私が先生の誘いを断れない理由がほかにあるって。

私なら原稿と引き替えじゃなくても、先生に……っ。

涙で視界がにじんだ時、三十階に到着した。インペリアルスイート。玄関には豪奢なシャンデリア、高級感あふれるチェアやテーブル、豊かな緑の観葉植物。ブルーのカーテンが掛かった大きな窓からは星が無数に瞬く夜の空と海。

「こっちへ」

先生に窓際に案内された。ローテーブルの上にはバラの花籠とシャンパン、トリュフが並んでいる。

刑事が探偵に落ちるかどうかなんてもうわからない。だって、私はもうすでに先生に落ちているから。

でも、先生に私の気持ちなんて関係ない。先生が知りたいのは、桜がこのシチュエーションをどう感じるか、ということ。

「島倉さんにここまでされたら、桜も落ちるんじゃないですか」

平静を装おうとしたけれど声が震えた。先生が低い声で言う。

「島倉も桜も関係ない」
「じゃあ、なんのために先生は私を……っ」
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