俺様作家に振り回されてます!
悲しくてあとはもう言葉にならなかった。

「いつになったら冬馬って呼んでくれるんだよ」

少し拗ねたような声で先生が言った。

「え?」

驚いて顔を上げると、目の前に不機嫌そうな先生の顔がある。

「初めてマキが連載を依頼しに来た時、俺は本当に行き詰まってたんだ。外見でちやほやされてテレビや雑誌で騒がれて……一部では本業をおろそかにしてるってささやかれた。でも、本当はネタが思いつかなくて」

先生が後頭部を掻いて続ける。

「女性ファッション誌の連載なんて、どんなの書けばいいかわからないし、絶対に嫌だった。でも、マキにしつこく言われるうちに、マキの言うように『新しい分野に挑戦することも必要』だと思うようになった。『本物の法医学者に会いたい』とかいろいろわがまま言ったけど、マキのおかげで新しい世界が開けた」
「わ、私は先生の作品が好きだから……」

先生はため息をついた。

「そうだよな。マキが好きなのは俺じゃなくて俺の作品なんだよな。だから、今日は原稿を口実に呼び出した。そうしたらマキは来てくれるだろうと思ったから」
「どういうことですか?」
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