明け方の眠り姫
僕の好みのショートカット。
少し長めの前髪の隙間から覗く、猫みたいな勝気な目が印象的。
綺麗で仕事の出来る女性にありがちなとおり、なんだかんだと押しに弱そう。
気が強くてぎゃんぎゃん煩いタイプの人間はうちの家族に多いものだから、僕は割と流すのが上手い。
好きなものはある程度チェック済み。
仕事場の画廊の近くにある花屋カフェが、最近は特にお気に入りのようだ。
珈琲はマンデリンが好きらしい、というのは店員の綾ちゃんから聞いた話。
カウベルの音を聞きながら店内に入ると、今朝もやっぱり彼女はそこに居てカップを手にぼんやりと外を眺めていた。
ちょっとした悪戯心で、綾ちゃんに「しー」と人差し指でジェスチャーすると、静かに夏希さんのテーブルに近づく。
どうせいい顔はされないしそれならちょっと脅かそうと思ったのだけど、それよりも先に夏希さんの方が動いた。
ぼんやりとしたままカップを口に運んだ瞬間、「あっつ!」と肩を震わせて、背中を丸める。
あーあ。
ぼんやりしてるから。
しっかりしてそうで案外手がかかりそうなとこも、可愛いところ。
「大丈夫?」
「大丈夫よ……って、また貴方なの?」
紙ナプキンを差し出して漸く目が合い朝の挨拶を口にすれば、やっぱり不機嫌そうに眉根が寄った。
「……あなたね、毎日毎日どんだけ暇なの?」
「暇じゃないよ。この後も仕事だし」
多分、夏希さん程には忙しくないけれど、彼女に会うために時間を作ってるのはホントの話だ。
さらりと彼女と同じテーブルに着いたら、更に眉間の皺が深くなった。
「あら奇遇、私もこの後仕事なの。忙しいから、食べたらすぐに仕事に行くわよ、私」
「あれ、画廊のオープンの時間までまだあるのに。夏希さん、今忙しいの? ひょっとしてまた個展とか? 準備手伝うよ僕、いくらでも」
「そんなしょっちゅう個展出来れば苦労しないわよ!」
要君のお守りをしてる暇はないのよ、と今すぐ帰れと言わんばかりの態度だけど、こういうとこがいい。
食指が動くというか、勝気な人が絆されて腕の中に落ちてくる瞬間の優越感が好き……と言えば、僕は最低な部類の人種になってしまうだろうか。
「イライラするとお肌に良くないよ、良かったらマッサージしようか?」
頬杖をついて首を傾げたらバシンと頭頂部を叩かれた。
ひどいな。
すぐ下の妹に時々やらされるから結構得意なんだけど。