明け方の眠り姫
ついひと息に責め立てる僕に、夏希さんは訳が分からないと言う風に目を白黒させていたけれど。
え……画廊は辞めたわけじゃない?
今度は僕の方が、虚を突かれて言葉を失った。
「手狭になったから、フランスから戻ったらもうちょっと広いところを借りようと思って。あの店舗は解約するけど、ちゃんと次の店舗先もアタリはつけてるわよ?」
「え……それは、フランス……」
「日本に決まってるでしょ馬鹿ね」
まじで?
夏希さんの肩を掴んでいた手の力が抜けて、二人の間の空間が少し広がる。
彼女が下から覗き込むように僕の顔を見上げてきて。
居たたまれないくらい、恥ずかしい。
ちょっと待って、全部僕の早とちりってこと?
「……嘘でしょ、だってマスターが……僕てっきり」
いや、だって。
ちょっと待って、マスターだって綾ちゃんだって、確かにそう言って……もうフランスから帰ってこないみたいな言い方を……。
あれ?
したよな?
カフェでの会話を思い出そうとしたけれど、記憶がイマイチはっきりしない。
あの時は何せ焦っていて、「フランス」って聞いた辺りから特にひどい。