明け方の眠り姫
「おやすみなさい」



髪を漉きながらそう言っても、僕の方はまだ気持ちが昂って眠れそうになかった。


もう何度、夏希さんの寝顔を見ただろう。
だけど、こんな風に満たされた気持ちでは初めてだ。


指の背で、何度も頬の肌を撫で淡いピンクの唇で留まる。


もう僕は、眠る貴女に悪戯をしても
許される立場には立てただろうか。


いつものように、悪戯にキスをして啄んで
いつものように、貴女は目を覚まさずに、そのまま眠ってしまうだろうと思っていたのに。



「え……」



微かに瞼が震えて
寝ぼけ眼だけれど確かにぼんやりとその瞳に僕を映し


緩やかに優しく、微笑んだ。


僕はついうっかり涙ぐんでしまったけれど
きっと貴女は、覚えていない。



「明け方の眠り姫」


End.
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