明け方の眠り姫
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そう、誰にも頼らずに生きていけそうな……
と、確かに僕は思っていたのだけど。
僕は、彼女のことを知っているようで全くわかっていなかったみたいだ。
「……ちょっと、要くん笑いすぎ!!」
「ゴメン。……だって、予想以上だったから……ぶはっ」
堪え切れずに噴出して、笑いの収まらない僕に夏希さんは真っ赤な顔で唇を噛みしめていた。
夏希さんを背中に隠して式場を出て、車に乗せ彼女の部屋まで送って来たのは良いけれど、その部屋の惨状たるや凄いものだった。
「……夏希さんって、結構何事にも無頓着?」
「違うわよ! 仕事が忙しくて家事にまで手が回らないの! ……そんなことより、早く仕事に戻らなくていいの?」
さっさと追い返したいようだけど、そうは行くか。
やっと彼女の部屋を突き止めて、それだけでなく中まで侵入を許されたのだ。
「うん。さっきのとこで配達最後だったから、今日はもう大丈夫」
あれやこれやと彼女を追い詰める方法を考えるけれど、それよりも今は部屋の片づけが優先だ。
「ちょっと、いくら散らかってるからってそんなことしなくていいから!」
洗い物を始めた僕の邪魔をして手を伸ばしてくる夏希さんをひょいっと躱す。
泡だらけのスポンジを高く掲げ、キッチンの外を指差した。
「僕がやるから。そんなことより、夏希さん顔洗いに行ったら? 目のまわりパンダみたいだよ」