ブラックドレスに甘い毒牙を隠して…
綾己の母親が私を近くのデパートまで送ってくれた。
「 またね、里桜さん 」
「 はい、ありがとうございました 」
車から降りて一礼し見送った。
あの日、綾己と待ち合わせた交差点は変わらず人が行き交う。
綾己が亡くなったなんて、もう記憶にないだろう…
私は綾己を思って待ち合わせた場所にも立つ。
今もまだ鮮明な記憶としてある綾己の姿。
でも、目の前で血にまみれた綾己の最後も 鮮明な記憶として消せない。
私の名前を力なく呼んだ綾己の声。
微かな笑みを見た…
触れようとして触れられなかった私の頬へ伸ばした綾己の手。
目を閉じなければ今も溢れてしまう涙。
交差点を一番離れた後ろの方から見つめていると、白い花束を手にした帽子を被った誰かが交差点脇の信号機下に花束を添えた。
私はその姿を見て心臓が壊れそうなほど大きく跳ねた。
誰…
誰なのっ…
手を合わせて立ち去る誰かの後ろ姿を追いかけようとした。
そして追う後ろ姿の人が急に立ち止まりポケットから携帯を取り出した。
そして私はそれが誰かわかった。
携帯のストラップに見覚えがあったからだ。
あれは、憂臣……
そして 私の携帯が鳴り出した。
私はすぐさまその場から逃げるように立ち去った。