嘘と本音*クリスマスに綴る物語
それから今日までの二ヶ月間、美和子はいつもと変わらない態度を取っていたが、心の中では葛藤していた。
仕事も充実しているし、今の時代結婚という形にこだわらなくてもいいんじゃないか。
などという話で女友達と盛り上がったこともあるけれど、本音は違う。
チャンスがあれば結婚をしたいと思うし、その相手は圭吾以外に考えられない。
でも、圭吾のことは勿論大好きだけれど……あとどれくらい付き合えば結婚を考えてくれるのだろうか。
女の方から結婚を臭わせるなんてことをよく聞くけど、二十代の若い女がそれをするのと、三十五歳の女がするのとでは重みが全く違ってくる。
美和子が『結婚したいな』などと言えば、急に結婚が現実的に思えてきて、男は引いてしまうのではないか。
もしもあと二年付き合って、結果振られてしまったら?
そう考えると恐怖さえ覚えてしまう。
自分に自信がないわけではないけれど、今の時点では年下の圭吾との結婚というものが見えてこない。
だから美和子は、別れる決意をした。
まだ一年だから、それならきっとなんとか気持ちも切り替えることができる。
それに、振られるよりも振ってしまったほうが相手に罪悪感を与えることもない。
自分の方が大人なのだから、落ち着いたふりをして綺麗に別れて元の同僚という関係に戻るのは容易なことだ。
テーブルからラウンジの入口に視線を移すと、『遅くなってごめん』そう言いながらスーツ姿の彼がやって来た。
気持ちを落ち着かせるために美和子が勝手に早く来ただけで、約束の時間まではまだ五分ある。
お願いしたわけではないのに、フロントから借りてきたブランケットをそっと美和子の膝に掛け、微笑む圭吾。
そんな彼のちょっとした優しさにふれるだけで、決意が揺らいでしまいそうだった。
けれど今日、一年前に圭吾が告白してくれたこの場所で、美和子は……嘘をつく。
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