嘘と本音*クリスマスに綴る物語
ーーパタンッ
結末まで書き終えた私はパソコンを閉じ、自分が宿泊している二十二階の部屋をぐるっと見渡した。
しわひとつない真白なベッドカバー、洗練された欧風デザインのソファーや家具。
ひと際目を引く大きな窓から見えるのは、川を挟んだ向こう側に広がる高層ビルの灯り。
今いる場所も東京なのに、都会の灯りを遠くから眺めている間は、慌ただしい日常から解放された気分になれる。
パソコンを片付けた私は、ルームサービスで頼んだ紅茶を口に運んだ。
今日はやっぱり、お酒を飲むのは止めておこう。
子供の頃から物語を考えるのが好きで、どうしても書きたい話が浮かんだ時に思い切って小説投稿サイトに登録し、〝由利亜〟というユーザーネームで小説を書き始めたのが七年前。
当時からミステリーを書くのが好きで、一度だけ文庫本を出版させてもらったこともある。
けれど仕事が忙しくなってきた三年前から、時間が取れずに殆ど書いていなかった。
そんな私が久しぶりに小説を書こうと思ったのは、彼とのことがあったから。
自分の経験や実体験を書いたことは一度もなかったけれど、美和子ならこの先どうするのだろうと客観的に考えながら書きたいという衝動にかられたから。
名前や職業以外はほぼノンフィクションと言ってもいい。
美和子という名前は私の本名が美和だからで、彼の本当の名は健吾という。なんとも単純だ。
つまりラウンジで思い詰めていた美和子は、三時間前の私自身。
そしてあと三十分もすれば、彼がここにやって来る。
どんなに悩み考えても、やはり結末は同じだった。
三十五歳の美和子は、六歳年下の彼に結婚したいと告げることは絶対に出来ない。
けれどこのまま終わりの見えない付き合いを続けていく勇気も持てず、結局美和子は彼に別れを告げた。
『あなたの隣にいる未来は、想像できないわ。
私なんかに時間を割く暇があるのなら、あなたの人生をもっと輝かせてほしい。
私は誰よりも、あなたの幸せを願っているから』
年上の女を演じ、大人ぶった台詞を小説の中で美和子に言わせたけれど、美和子の本心は私にしか分からない。
だって美和子は、私なのだから。