嘘と本音*クリスマスに綴る物語
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彼はワイシャツのポケットから取り出した物を、何も言わずに彼女の指にはめた。
『勝手に悩んで、勝手に決めるな』
わけが分からないといった様子で、別れを切り出したはずの美和子は戸惑いの表情を浮かべる。
『去年のクリスマス、君に好きだと伝えた日から俺は二人で歩く未来しか考えていないよ』
『でも、私は……』
『年下の俺との結婚を本気で考えてくれるのか、不安だったのは俺の方なんだ。でもそんな必要はなかった』
彼はそう言って、美和子の体を優しく包み込んだ。
『俺を信じてほしい。美和子……結婚しよう』
美和子の目からぽろぽろと涙が零れ落ち、それを彼がそっと拭う。
『東京の夜景を一望できるこのホテルは、俺達の思い出の場所だ。ここで君と、永遠の愛を誓いたい』
『私は……またここで、あなたと夜景が見たい。今度は、あなたの妻として』
自分の気持ちに嘘をつくことを決めていた美和子が本音をぶつけた瞬間、彼はその唇に優しいキスをした。
彼の背中に回した美和子の左手には、ホテルから見える夜景にも決して劣らないほどの綺麗な指輪が、キラリと輝いている。
ークリスマスに綴る物語ー
由利亜 著
END