きらきら
☆るいーず☆
【出張帰りの彼氏からのプレゼント。ケイト・スペードのレザーグローブ。日本未発売じゃないと許さないぞぉ】
【今日は土曜日。雨でゴルフが中止になったパパとハイアットでランチデート】
鉛色の空の下。私は事務所の裏口でスマホを指で滑らせながら、空と同じ色のハートの数を確認した。グレーのハートは30ほど集まっていたけど、やはり文字だけでは物足りないのが数字でわかる。画像が必要だ。私はスマホをポケットに戻して指でフレームを作り流れる雲をはめ込んだ。雲は焼却炉から流れる煙のようにフレームに留まらず気まぐれに通り過ぎてゆく。フレームの形はリツイートに似ていた。
「みっちゃん。もうゴミ捨てちゃった?」
二階の事務所から井上さんが大きな声を上げる。
「まだ収集車来てないから大丈夫です。今、取りに行きますね」
「寒いのにごめんね。もうひとつあったのよ」
井上さんは申し訳なさそうに手を合わせてから強く窓を閉め鍵をかけた。窓にもスマホにも鍵は必要。私は肩をすくめて裏口から事務所に入ってコンクリートの階段を上る。空と同じ灰色。いいねと同じ灰色。冬の入口は灰色がいっぱい。
小さな町の商工会で働く私。
高卒のコネ入社。都会に出る勇気も頭も足りなかった。
職場には同年代はいない。中高年のおじさんおばさんが多くて私が一番若いから使われる。可愛がってくれる。でもその可愛がるという意識は平和で無色透明な世界。☆るいーず☆が与えられている口の中の温度だけで溶けゆく高級チョコレートのような甘さは一切なく、彼女を取り囲むパステルカラーの世界とは全く別物だった。
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