ネガティブ女子とヘタレ男子
日常
1-B
暖かい陽射しが降り注ぐ午後。
この時間の窓際の席は、普通ならば眠くなってしまう。
「はぁ…。」
案の定、日頃の俺なら絶好の昼寝日和と眠気を優先していたことだろう。だけど、今日は違う。
ーーー先日。天に諭されて気づいた俺の鈍さ。
それ以降少しずつでも爽ちゃんとの接点を持てる様に、教室を覗いてみたり、廊下ですれ違う時に話しかけようとしたり…。俺なりに努力をしてみたつもりだった。
だけど、そこまでしても爽ちゃんの周りの取り巻きの壁は厚く、話しかけることすらままならない。
教室を覗きに行けば、爽ちゃんの周りには人だかりが出来ていて顔すら見えない。廊下では、ツインテールの子が常に話しかけていて俺の存在に気づいてくれない…。
そのお陰で一つも進展しない現状が、ずっと続くだけだった。
「はぁぁ…。」
「三十五回目。」
「っ、いって、なんだよ急に!」
「暮人が今日学校来てからついた溜め息の数三十五回。あのさ、お前気づいてないだろうけど、常に話しかけても上の空で、溜め息で返される俺の身にもなれよ。心配するだろ。多少は。まぁ、そのお陰で昼飯は全部俺が食えたけどさ。ほんとお前何があったの。」
「スルーすんな!ったく……どうもこうも、恋する男の子は大変なんだよ。お前と違ってな。」
天は本来なら俺と少し離れた席いた。だけど、何故か俺の前の席の子と変わって貰ってからは常に前にいる。
机に肘をつき、掌に顎を乗せて深く溜め息を吐(つ)く。その姿を三十五回も見たと言いながら面白くないと肘を払われた。
勢いよく下に落ちる頭を支え、払われた肘をさする。めちゃくちゃ強くされたからか、地味に痛みが広がっていった。
「はぁ…ほんと、馬鹿だよなぁ暮人は。そんな鈍感な暮人くんに天才な俺様が教えてやるよ。」
「何だよ腹立つな…。」
「お前は気づいてないかもしんねえけど、昼飯も終わってる筈のこの時間に何で普通にお前と喋れてると思う?」
「はあ?」
「五限と六限は文化祭の準備だろ。今、クラスはその役員決めとか、内容とか決めるので盛り上がってんだよ。」
「ほら。」と、さっきまでが無かったかのように接する天に、若干の苛立ちを感じながら指された方へ視線を移す。すると、クラス委員が前に出て騒がしい教室をまとめていた。窓際で呆けていた俺は気づかなかったが、いつの間にかクラスの出し物まで決まったようだった。
「そんでもって、夏休みが終われば三日間は文化祭。ほら、うちの学校ってさ、体育祭ねえから唯一のイベント、文化祭で二人で回ったりとかして告る奴とか増えるんだよね。告るまではいかなくても、それって充分話すきっかけになると思わねえ?」
「どー言う意味だよ…。」
「文化祭を一緒に回ろって話しかけるきっかけができるじゃん。ってこと。」
クラスの盛り上がりが何故か一層大きくなる中、天はニヤリと笑う。話し半分で聞いていた俺は、最後の言葉が意味している事をようやく理解することができたのだった。
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