ネガティブ女子とヘタレ男子

「…たん。さやたんっ。」

私を呼ぶ千秋ちゃんの声で目を覚ませば、頬が少し冷たい。そっとソコに触れれば、一筋の川が出来ていた。

「さやたん怖い夢見たの?」

カーディガンのポケットに入れていたのか、スッと千秋ちゃんがハンカチを差し出してくれる。イチゴとウサギの絵が載った女の子らしいソレを受け取りそっと涙をぬぐえば、何故泣いていたのか分からない自分に首を傾げる。

(怖い夢…と言うよりは、悲しい夢だったような気がする。)

懐かしい夢だったような、そうでないような。そんなモンモンとした気持ちは明らかに恐怖では無かった。だけど、夢には確かに、胸を締め付けて涙を流すような…そんな理由があった気がした。

「…忘れちゃった。」

「ふふっ。さやたんが居眠りなんて珍しいから、きっと神様が意地悪したのかな?」

「そうかもね。」

ふふふ。と二人で笑いあい、他愛もない会話を繰り広げる。私が眠っていたのは、ほんの数分で、教室で行われている話し合いは未だに続いていた。

その間でも気にせず千秋ちゃんと談笑を続ける。周りの男の子達が、私が起きたことに気づいたのか私たちの周りに集まりだした。

「ふ、風深さん。寝てたの?」

「うん、寝ちゃってた。話し合いに参加しなくてごめんね。」

「全然平気だよ!満場一致で出し物も美コン出場者も決まったしね!」

「ふーん…そっか。ありがとう。」

集まってきた一人に話しかけられて、緊張しながらも答えた。

興味無さげに答えていても、内心は緊張からのドキドキが止まらない。にこやかに話してくれるクラスメイトの男の子は、私がこんな事を思いながら話してるなんて知らないんだろうな…。

「美コンも決まったの?それ千秋知らないかも。」

「大丈夫だよ、千秋ちゃん。俺等が教えてあげるから!」

「わーい!ありがとうっ。」

小さい体で小さな手を広げて喜ぶ千秋ちゃん。

緊張していた私は、肩の力が抜けると言う意味をはじめて理解した気がした。

(うん、今日も千秋ちゃんは可愛い。)

だぼだぼの袖から少し見える指や、ツインテールが揺れるほど跳ねる彼女を、男の子達は可愛い可愛いと話していた。



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