ネガティブ女子とヘタレ男子
突然の再会
風深爽
校則よりも明るくした赤髪。ハデ目のメイク。痛みを我慢して開けたピアスは、これで五つ目になった。
「爽(さや)ちゃん、時間よー。」
お母さんの声を聞き流し、最後の仕上げに制服を気崩していく。
規定のブレザーの下にクリーム色をしたカーディガン。スカートインなんて絶対しないワイシャツに、膝上15センチをキープしたスカートを履いて、薄めのタイツに、ローファー。
(よし、今日も完璧。)
玄関で、下駄箱についている少し大きめの鏡で全身を再確認して、扉に手をかけた。
「行ってきまーす。」
まだほんのりと肌寒さが残る梅雨の始め頃。冷えた風が寒さを更に運んできた。寒がりの私は、急いでマフラーを巻いて顔を埋める。風に当てられていた首が隠れて、じんわりと暖かさが広がった。
萌え袖と呼ばれる袖の長さは、この位の寒さだと、していて良かったなと改めて実感する。
それでも、どんなに寒くても手袋は着けない。
寒いからこそ、萌え袖だからこそ意味があるのだ。
ー私は、可愛く無ければいけないから。
「あ、オイ。あれ、」
「わっ、あれって一年の風深ちゃんじゃん。朝から見れるとかラッキー過ぎじゃね。」
「ほんと、噂通り可愛いよなぁ。」
中学の途中まで根暗で眼鏡でおさげ地味子だった私、風深爽(ふうかさや)は、友達や恋愛と無縁の学生時代を送ってきた。
常に一人で本を読む。
周りの友達が楽しそうに話しているのを、本の隙間から何度隠れ見たことか…。
そんな自分を変えたくて、両親の離婚を機に、母の地元へ中学卒業と共に引っ越してきた。こっちの高校に受かって、晴れて高校デビューをはたした私の胸は、はち切れんばかりに高鳴っていた。けど、元々真面目な高校ではなかったようで、入学した時から私みたいな格好の子や、金髪の子、制服さえ着ていない子等、様々な人がいて、その様子を見て緊張の糸が解(ほぐ)れ…いや、切れた。プッツリと。
「ふ、風深さん…!お、おおお、おはよう!」
「…おはよ。」
「あー…!今日もかっこ可愛い!」
切れた結果が、こんな無愛想な結果になってしまったんだけど…。
(コミュ力が無さすぎて咄嗟(とっさ)に話しかけられると敬語になっちゃうから、それがバレないように単語しか返さなかったのが駄目だった…いつの間にか寡黙(かもく)なクール系と言うランクの高いレッテルを貼られ、そのせいで入学してから数ヶ月経った今でも友達が出来ていないとか…ほんと辛すぎて笑いしか出ないわ。)
昇降口で一人、靴箱の前で涙目になっていると、横を通り抜ける花の香り。
ラベンダーの香りを鼻にうけ、懐かしさから顔を上げれば隣には知らない男の子が立っていた。
髪の毛ボサボサ。分厚い眼鏡をかけた、少し、否(いや)かなり背の高い男の子ーーー
「そこ、」
何故懐(なつ)かしく思ったのか…。頭に疑問符を浮かべながらじっと男の子を見つめる。すると、突然話しかけてきた男の子は、表情ひとつ動かさないまま、私の目の前の下駄箱を指差した。
「…靴、置きたいんだけど。」
上靴のみ置かれた下駄箱。
名前は書かれていないそこに、彼は上履きを取って靴を入れた。
「ぁ、ご、ごめんなさい。」
「大丈夫。」
くるくるした髪の毛、前髪でほとんど隠れてしまっている眼鏡。顔なんて見えるはず無いのに、下から見上げた彼の顔は更に懐かしさを感じさせるものだった。
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