ネガティブ女子とヘタレ男子

彼等の場合


「たーのもー。」

日曜日の朝早く。俺は一軒の家の前でインターホンを連打する。家の住民が一人しか居ない事を知っているから、ソイツを起こすためにわざと連続で鳴らす。途中で近所の方に「またやってるわよ、あの子。」と噂されても鳴らす。そうでもしなきゃ、アイツは休日に外に出たりしないから。

「………朝っぱらからマジ近所迷惑。」

五分程鳴らし続けてようやく出てきた天は、寝巻きのまま不機嫌な顔でこちらを睨んだ。

「せっかくの休みに昼まで寝てたら勿体ないだろ。」

「だから遊ぼうぜ。」と笑ってやれば、観念した天はため息を溢して頭をかいた。

休日は基本自宅警備員の天を遊びに誘うときのいつもの流れが、今日も無事に終わった。

「はあ…準備してくっから、ちょっと待っとけ。」

「いや、今日は外出しない。お前の家で作戦会議するぞ。って事でお邪魔しまーす。」

「は?ちょっ、作戦って?」

準備すると中に入った天に続いて、「お邪魔しまーす。」と家に入れば、整えられた家の中がよく見える。

天の両親は共働きで、しかも二人とも海外に出張中。二人は帰って来ている時の方が少なくて、天は一人暮らしにしては広すぎるこの家の家事を一人で担っていた。

「しっかし…相変わらず綺麗な家だよなぁ。」

「いや、人の話をだな…はぁ。そりゃ一人で住んでるんだから、綺麗にするに決まってんだろ。」

「あ、俺朝飯まだだった。」

「お前本当なんなの?何しに来たの?早く帰れば?」

ぶつぶつ言いながら台所に向かう天。優しい天は、口が悪いだけでお願いすれば何でもしてくれる。それに甘えてしまってる俺が言うのも何だけど…天は、本当に良い奴だ。

ジャーっと何かを焼く音が聞こえ、俺は天の部屋に向かった。小さい四角机と、パソコン用のデスク。本棚と、ベッドとクローゼット。この部屋のものはいつ見ても少なかった。

一枚ずつ取り出せるアルコールの布巾を手に机を拭く。すると、暫(しばら)くして天の足音が聞こえた。いそいそと扉を開け、両手が塞がっている天を招き入れる。天の手にある卵焼きがちらと目に入れば、空腹だった腹の音は盛大に鳴り響いた。

「卵焼きに味噌汁。やっぱ日本人の朝食はこうでないとな!」

二人で机を囲んで食べる朝食。
大盛りに盛られたごはんと味噌汁が、部屋中に美味しそうな匂いを充満させていた。

「いただきます。」

二人で手を合わせて食べ始める。普通適当にしそうなこう言う行為も、天はきちんと済ましてからでないと駄目だと言う。理由を聞いたら、隣に住む幼馴染みから「作ってる人や、食べられる命にお礼を込めて言わなきゃダメなんだよ。」と、怒られたから。と言っていた。子供の頃に教えられたそれを、今でもキチンと守ってる天は、本当に幼馴染みの事が好きなんだなと改めて実感する。

「このくらい家で作って食って来いよ。何でわざわざ俺の家で食うかな。」

「飯はさ、やっぱ皆で食った方が美味いじゃん。それに夜はいつも幼馴染みと食うんだろ?じゃあ日曜の朝くらい、親友と食おうぜ。」

「何が嬉しくて男二人で飯食わなきゃいけねえんだよ。」

「っかー!まじうんまい!この甘さが良いんだよな、卵焼きは。もうさぁ、俺天と結婚するわ。」

「いつにも増して話聞かねえな、オイ。ってか、俺等が結婚したら風深さんは独り身になって、ライバルが狙い放題だけど。それで良いn、」

「悪い、天。俺お前より爽ちゃんの方が一億倍愛してるんだ。」

「食いぎみに何かと思えば、何で俺がフラれなきゃなんねーんだよ。」

胡座(あぐら)をかいた足に、天がゲシゲシと抗議を入れる。楽しい朝食の時間は、あっという間に終わった。



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