ネガティブ女子とヘタレ男子

教室へ行くと、出迎えてくれる男の子達。
最初の頃は男女ともに私に駆け寄ってきてくれて、それだけで嬉しさが込み上げてきた。だけど、男の子達が話しかけてくれることが増えていくうちに、女の子達の態度は二つに別れてしまった。

一つはーーー

「さやたんおはよっ。」

「おはよう、千秋(ちあき)ちゃん」

貼り付けられたような笑顔で近寄ってきて、仲良しアピールする子達。

「爽ちゃんと千秋ちゃんって本当に仲良いんだね。」

「へへっ。千秋ね、さやたん大好きなんだ。」

(…可愛いなぁ…。)

ツインテールの先をコテでゆるく巻いた彼女の髪が、一つ一つの仕草で小さくぴょんぴょんと揺れる。ダボダボなカーディガンから見える小さな手があざとさを際立たせた。

八雲千秋(やくもちあき)ちゃん。あざと可愛いを自然にやってしまう彼女は、男の子達からの人気も高い。それなのに人柄もご覧の通り良いから女子ウケも抜群な、コミュ力の高い女の子。

わざわざ私のところに来なくても、彼女の周りには常にたくさんの人がいる。

「千秋は最近ずっと風深さんの所にいるもんねー。たまにはアタシ等とも遊ぼうよ。」

「うんっ、また今度ね。」

それでも、そんな私達を良くは思わない子も居るもので…。

それが二つ目ーーー

「あーあ、ほんとウゼェ。」

「男に媚売って、ビッチかよ。」

隠れて悪態を吐く子達。
最近、二つ目の女の子の方が多いような気がするのは気のせいじゃないと思う。
常に影でコソコソと言われていた私のせいで、千秋ちゃんの事に関しても少しずつ増えていった。

毎度大きな声で、聞こえるように交わされるひそひそ話に彼女も少し悲しげに眉を下げる。

(直接言えば。なんて、言える勇気私には…ないよ。)

所詮この世は弱肉強食。

どこかのアニメか何かで聞いたその言葉は、当時幼なかった私にも理解ができる、簡単な表現の仕方だと思う…。

ーーー小学生の時、大人しかった私に必ず絡んできた男の子。その頃からしていたおさげ髪を、よく引っ張られては泣かされていた。その時に気づいた。私は弱者なのだと。

(あれがあったから"弱肉強食"なんて難しい四文字熟語、理解できたんだよね…。)

その男の子は、今では顔も名前も思い出せない。思い出そうとも思わないけど、私に弱者と言う概念を押し付けた彼が、今どういう大人になっているのかふと気になった。

(そう言えば、今朝会った男の子の髪…彼と似てる気がするな。くるくるしてるところが。)

今朝の出会いがあったから、珍しく彼の事を思い出してるんだな。と、自己完結させて、思考の波に潜っていた意識を現実に戻した。

ふいに見えた空は、とても高かった。








「あ、飛行機雲…。」









同じ空を、彼が見ていたなんて考えもせずに、私はその日を平和に終えた。



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