ネガティブ女子とヘタレ男子

千秋ちゃんと俺が殆(ほとん)ど話してる中、天は時々口を挟んでくるけど、爽ちゃんはクスクスと笑ってその光景を眺めているだけで、会話に混ざろうとはしなかった。

「よし、千秋はもうお話したから、次はさやたんだね。あ、これってレディファーストってやつかな。」

「チィの頭は相変わらず平和だよなぁ…。」

「あ、てんてんバカにしてるでしょ!むぅぅ…千秋馬鹿じゃないもん!この前のテストでちゃんと平均点とれたもん。さやたんが教えてくれたからバッチリだったもん!」

「私は何も…千秋ちゃんが頑張ったからだよ。」

ふふ。と手を口に添えて笑う姿が、昔と変わってなくてドキッと胸が跳ねた。バクバクと耳元で聞こえる心音が、周りに聞こえているかもしれないなんて気にして、恥ずかしくなった俺は下を向いた。たれた前髪の隙間からチラチラと見える爽ちゃんが、また小さく笑うから心臓は早鐘(はやがね)の如(ごと)く鳴り響く。

ある程度盛り上がったのか、千秋ちゃんはまた爽ちゃんに自己紹介と話をふった。

昔の爽ちゃんなら注目されることが苦手な分、すぐ下を向くだろうな。なんて予想を立てて顔をあげれば、案の定爽ちゃんの視線は下を向いていた。

「私は…、」

(…俺が、悪いんだよな。)

彼女が注目されることを嫌いだしたのも、俺がからかってばかりいたからだ。いつもからかっては、他の友達がヤジを飛ばす。彼女はそれが嫌だったのか、恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら大粒の涙を溢していた。

眉を下げて無理に笑う爽ちゃん。

さっきまでの幸せな笑顔とは違う…。それは俺が植え付けてしまったトラウマのせいで、その事実に落ち込んだ胸は早鐘をピタリと止めた。

言葉が続かない爽ちゃんを心配してか、千秋ちゃんはおろおろと俺達を交互に見る。沈黙を破ったのは、

「じゃあさ、」

天だった。

「風深さんの代わりに、俺がいっていい?」

「あ、うん!そうだね、てんてんにしよう!じゃあどうぞーっ!」

「ふは、フリが雑。えっと、1のB蒼野天(あおのそら)。チィとは子供の頃からの腐れ縁で、暮人とは中学が同じでたまたまクラスも同じで出会いました。中学が男子校だったから俺等二人彼女もいませーん。学校一美人の風深さんとはこの前挨拶したくらいだから、これから仲良くなれたらと思ってます。宜しくー。」

気まずい空気から、天が話し初めてゴロっと明るいものへ変わる。胸を撫で下ろす爽ちゃんに、その姿を見て落ち着く千秋ちゃん。二人が落ち着いたのを見て安心する俺は、話すだけで場をここまで変えられる天に、さすがだと心のなかで拍手を送った。



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