ネガティブ女子とヘタレ男子

すれ違い


暮くんが帰ると言って出ていってしまった。

もしかしなくても、私のせいだ。

「優しくするから。」と約束してくれたあの言葉を信じていない訳じゃない。それでも私は、彼へのトラウマよりも横にいる友達の恋心を優先した。

ーーー暮くんを好きな、彼女の気持ち。

顔の半分以上が前髪や眼鏡で隠れている暮くんは、私の知らない時間が作ったものなのか…。彼の前髪で出来たバリケードは、音を立てて何重もの扉をしめ始めた。

(…千秋ちゃん。)

初めてできた友達、しかも恋愛相談なんてされたことなかった私は、すごく嬉しくて…だから彼との過去を言えないまま、ずるずるときてしまった。

「柊くん、どうしちゃったのかな…千秋、ちょっと見てくる。」

「え、千秋ちゃーー」

慌てて後を追う千秋ちゃん。
走っていくさいに見えたいつも楽しそうに跳ねるツインテールが、何故だか今は凄く悲しいものに見えた。

「………。」

蒼野くんと二人きり。

沈黙(ちんもく)と一緒に重たい空気が部屋に流れた。

「…風深さん。何であんな事言ったの?」

優しくなった旧友に、可愛くて自慢の友人。優しい二人が幸せになれたら、それは凄く素敵なこと。その応援をするために、私は…。

「そんなに泣くなら、嘘なんて吐(つ)いちゃダメだぜ。」

千秋ちゃんの背中を見送った瞳からは、たくさんの涙が溢(あふ)れていた。

「私、間違っちゃった…。はじめて出来た友達だったのに。」

エグエグと息を詰まらせて、両手で顔を覆って涙を流す。背中に暖かい掌を感じて振り返れば、いつの間にか蒼野くんが優しく撫でてくれていた。

「……チィって、暮人が好きなの?」

「っ…し、知らない…。」

「…そっか。」

傍にあったティッシュを差し出されて涙を拭く、その間も暖かい掌は背中にあって、その暖かさに目頭がまた熱くなった。

ポツリポツリと落ちる雫。

乾いたティッシュはすぐに冷たく湿ってしまった。

千秋ちゃんの幼馴染みに嘘をついてでも、彼女との約束は守り通す。それが、私にはじめて出来た、友達という絆のあり方だと思いたいから…。



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