ネガティブ女子とヘタレ男子


賑やかな教室から一人離れて、誰にも使われていない空き教室を目指す。

うちの学校は校舎が二つに別れていて、私達のクラスがある生徒棟と、課外棟と呼ばれる音楽室や実験室、職員室、校長室に保健室等、主に先生や特別授業で使う部屋が多い棟の順番で並んでいる。

たまたま職員室からクラスへ戻ろうと踵(きびす)を返したとき、渡り廊下とは逆の廊下がふと気になった。誰も居ない廊下に導かれるまま、足はそちらの方へと進んでいた。その時に見つけたこの空き教室は、あまり開けられることが無かったのだろう。油を注(さ)さないと動かないブリキの様にギギギと重い音をたててゆっくり開いた。

埃っぽい部屋の中、空気を入れ換えるために窓を開ける。始業のベルがノイズと共にスピーカーから鳴り響いた。

「夏の匂いだ…。」

生徒棟から聞こえる授業の声や、体育館から聞こえるキュッキュッと靴の滑る音。穏(おだ)やかな時間が、私に久しぶりの深呼吸をさせてくれた。

胸一杯に送り込む酸素。

ゆっくりと二酸化炭素を吐き出して、近くの椅子に座る。

(…帰りたい。)

鞄を教室へ取りに行くのも面倒で有言実行(ゆうげんじっこう)とまではいかなかったが、ポケットに入れていたスマホを開いて暇な時間を潰す。

そよそよと入り込む風が、夏の暑さを和らげてくれた。

眠たくなるような夏の日差し。

ずっとこの時間が続けばいいのにーーー

「あれ、風深さん?」

突然かけられた声に意識を戻して、声の主へ目を向ける。

開いていた扉の前で立っていたのは、

「君もサボりなのかな。」

横場くんだった。




.
< 36 / 95 >

この作品をシェア

pagetop