ネガティブ女子とヘタレ男子
ニコニコと爽やかな笑顔を浮かべて、その裏で何を考えているのか分からない彼が私は少し苦手なんだと思う。
千秋ちゃんへの好意を横場くんのように一途に伝えられれば、"彼"も少しは報われるんじゃないかな。なんて、私には関係ない事を考えながらも、二週間前に励(はげ)ましてくれた彼を横場くん以上に応援していることは確かだった。
「私、もう戻るから。横場くんが居たいならどうぞ。」
机があって通られない後ろの扉から出ることは諦(あきら)めて、嫌々(いやいや)開いている横場くんのいる方へと向かう。
その時、退いてくれるだろうと思っていたから、これは予想できなかった。
ーーー大きい体で塞がれた出口。
隙間から出ようとすれば、腕や足が邪魔をする。
(前言撤回(ぜんげんてっかい)。私は彼が苦手だ。)
未だにニコニコと楽しそうな彼は、何を考えているのか本当に分からない。
「…通してほしいんだけど。」
「前に言ったでしょ、俺は君の事が好きって。好きな子が一人でいたら、二人っきりになりたいと思うのは男の性(さが)だと思うけど?」
「嘘つき。」
「酷(ひど)いなぁ、こんなに大好きなのに。」
「こんなに心のこもってない告白を貰(もら)ったのは初めてだよ。」
腕を組み、彼よりも身長の低い私を上から見下げてくる。優しげな笑顔は崩さず出てくる言葉は、私には全て反対の意味に聞こえた。
「ふふ、やっぱ君は良いね。チィちゃんみたいに芯があってかっこいい。」
出ることを諦めた私は、少し彼と距離をとって壁を背に腰かける。横場くんに対しては強く言える自分が、少し不思議だった。
(そっか…。千秋ちゃんを困らせる人だから、私もここまで強く出れるんだ。)
友達が困れば誰だって嫌だ。横場くんは、千秋ちゃんの笑顔を曇らせる原因のような気がして、尚更(なおさら)私は苦手なのかもしれない。
憶測(おくそく)に過ぎなくとも、彼の千秋ちゃんに対する愛情からは、少し依存に似たものを感じた。それだけで、私のなかの警報器が横場くんはレッドカードだと告げている。
横目で横場くんをみると、猫っ毛なのかふわふわとした色素の薄い髪が、窓から入る風と共に揺れていた。
警戒心を持ちながらも、穏やかな空気は心まで穏やかにしてしまいそうだった。
「ここ良いよね。誰も来なくてさ。一人になりたい時とか、俺もよく来るんだ。」
窓からみえる植木や、隣の校舎。少しだけみえる青いキャンバスに、入道雲が白く描かれていた。
「…お気に入りの場所、勝手に来てごめんなさい。私も少し一人になりたくて。次から別のところを探すから、」
「君ならいいよ。」
もう来ないと宣言すれば、食い入るようにその言葉は遮(さえぎ)られる。
そんな彼は、いつのまにか目の前にしゃがみこみ、今度は上からでは無く同じ目線で私を見た。
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