ネガティブ女子とヘタレ男子
重なった視線。
時々揺れる瞳は、笑顔の仮面を被っている彼の隠された弱さを表しているようだった。
(これは…。)
ーーー彼の瞳は、私と同じだ。
まるで鏡を見ているような錯覚(さっかく)に陥(おちい)る瞳を見つめながら、そっと彼へ手を伸ばす。すると、弱々しく微笑んだ横場くんは伸ばした手を引いて、大きな胸へと私を閉じ込めた。
「同じクラスになってすぐ、君を見た時に俺は泣きそうになった。君の瞳があまりにも俺と同じで…無理に弱さを隠そうとしてたから。」
「…。」
「俺、この見た目だからあんま学校っていう場所での良い思い出が無くて、弱肉強食のこの世界から早く抜け出したかった。君もそうだろ?君も、俺と同じ…弱者から強者へ変わろうとした人だ。」
「っ…。」
「…チィちゃんってさ、優しいから俺達みたいな弱者のこと、本能からか守ってあげなきゃって思うみたいなんだよね。自分だって周りに嫌な事されてきたのに、自分の事より先に、周りの事を考えれる人なんだ。そんなチィちゃんには、てんちゃんってヒーローがいて、そのてんちゃんも凄く強くて優しい。本当のヒーローみたいな人なんだ。…俺は二人に助けて貰った。一人じゃないと、手を差しのべて貰った。だから俺は、誰よりも二人に幸せになってほしい。二人の幸せの為なら、なんだってするつもりだよ。」
横場くんが話すなか、私はなにも言えなかった。同じ弱者だと思う人に出会えたけれど、彼はとっくに救われていた。彼は二人に依存することで、他者との関わりを最小限にして一人でいることをやめたのだ。
ーーー私とは違う。
自分を変えなきゃなんて思いながら、変えれたのは見た目だけ。中身は昔と変わらない、内気で弱気な風深爽のまま。
「でも、それに君の弱さは邪魔なんだ。」
ドンっと背中に響く鈍い傷み。床に押し倒された弾みで、すぐ目の前には横場くんの顔があった。
「君の弱さに無自覚で惹(ひ)かれたチィちゃんは、君のお陰でまたあの頃のように誰かを助けるために傷ついてる。ねえ、俺にも教えてよ。チィちゃんに何をしたの?俺…チィちゃんの笑顔が好きだ。周りを暖めるあの笑顔が好きだ。なのに、それをあそこまで冷たくしたのは君なの?君は、本当に強くなろうとしたの?」
上に被さる横場くんは、凄く辛そうに私を見下ろしていた。
ーーーそう。私は強くなろうとなんて、してなかった。
胸を締め付ける事実に、顔をそらす。いつの間にか溢(こぼ)れていた涙は、米神から髪を濡らしていった。
いくら見た目を飾(かざ)ろうとも、内面を変える努力をしなかった私に、千秋ちゃんのような自分を省(かえり)みないで人を助ける強さなんて手に入れることはできない。
誰かの為に動く横場くんのようにはなれないんだ。
『君は君のままで良いんだよ。』
ふと、蒼野くんの言葉が甦(よみが)る。私は私のままで…弱いままでなんていたくなかったのに…。
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