ネガティブ女子とヘタレ男子

「疲れた。」とベッドに横たわる天。横向きに丸まって、携帯を開いていた。

未だコントの余韻が残っている俺は、クスクスと口元を綻（ほころ）ばせる。

天が座っていた座椅子に、今度は俺が腰かけて流れた一時（ひととき）の沈黙が心地よかった。

「満足ですか。」

「大変満足です。」

壁を向いて丸まっていた天は、いつの間にか布団までかぶって俺の方を向いていた。顔だけ出た天は、眠そうに欠伸を一回。それをみていた俺も、つられて欠伸を一回。それだけで、いつもの俺達に戻れた気がした。

机に置かれている眼鏡を手に取り、度の入っていないそれを眺める。手に持つそれは、数年間つけ続けているからか、中々手に馴染むものだった。

長い前髪も、眼鏡も、天の前では必要ない。だが、癖になった眼鏡をかけると言う行為も止められないわけで。ワックスでオールバックにしていた髪と、分厚い丸眼鏡の姿に天もクスクスと笑っていた。

「休みの時は顔出すくせに、それで外出とかしてバレねえの。」

「まあな。俺の顔ちゃんと見たことあるやつなんてお前くらいだし、すれ違ってもなにも言わなきゃ意外とバレないよ。」

「クルクルキノコ天パをオールバックで纏めて似合うのはお前だけだよ。」

「はは。サンキュ。」

気付けば辺りは窓から差し込む光で真っ赤に染まっていた。

布団にくるまれてうとうとと船を漕ぐ天は、眠そうに言った。

「文化祭、楽しもうな。」

「うん。楽しもう。」

「その時、頑張って風深さん誘えよ。」

「だな、頑張るよ。」

「風深さん彼氏できたらしいから、なおさら頑張れよ。」

「うん。……って、ちょっと待って初耳なんだけど！コラ、天！寝るなって！」

一度寝てしまうと中々起きない俺の親友。天の不気味な一言は、起きてからも真相を聞けずに、そのままとなってしまった。



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