ネガティブ女子とヘタレ男子
ボロボロと剥がれていく仮面。
貼り付けられた笑顔は、怒りも悲しみも込められた涙へと変わっていった。
ゆっくりと膝から落ちていく大樹。ワナワナと震える体は、今にも溶けてしまいそうなほど小さく感じた。
「ひろーーー」
「話は聞かせてもらった。」
「へ?」
無意識に「大丈夫だよ。」と駆け寄りそうになった。「いつもと変わらない。ずっと一緒。」そう告げようとした言葉は、聞きなれた声によって遮られた。
「な、っ…暮人、何してんの。」
「……柊、暮人。」
「お、知ってるなら紹介はいらねっか。」
陽気な言葉で入ってくる暮人に、大樹は警戒心マックスで睨み付ける。空気を読めないのはいつもだけど、今日はさらにKY(ケーワイ)だな。なんて考えていたら、自然と頬が緩んだ気がした。
「たまたま職員室に行こうと思ったら話し声が聞こえて、誰かなって見に来たら天がいんだもん。男からの呼び出しとかさすがーとか思ってたらだんだん空気悪くなってくし。まあ、暮人さん空気読めるから?暗くなりすぎる前に入っちゃった。」
「黙れケーワイ。」
「酷い!」
貶すように目を細めれば、「俺でも傷つくんだぞ。」と泣き真似をする。暗かった雰囲気が、コイツがいるだけで晴れていった。
「うるさいなぁ…。」
そんな空気に不服そうに立ち上がり、高い視線から暮人を見下す。大樹が仮面を剥いで人の前に立つのは久しぶりで、驚いた俺は出遅れた。
一度嫌い枠に入れてしまうと容赦ない大樹は、暮人の前まで行って腕を振り上げた。
「ま…っ!」
ドカッと鈍い音が響く。反射で目を閉じてしまった俺は、その後に続く打撲音が無いことに不思議に思いながら恐る恐る目を開いた。
「いってー…お前強いね、ガタイ良いだけあるよ。」
「チッ…。」
大樹の重い一発を、暮人が受け止めている。
ジリジリと押され気味な暮人は、力の反動を利用し、しゃがみこんでその場から距離をとった。
「アンタさ。千秋ちゃんと天と一緒に居たいんだろ。」
「お前には関係ない。」
「一緒に居たいならいればいいじゃん。怖がらずにさ。こいつらはそれを許してくれるよ。」
「は?」
右の口角をニッとつり上げて、イタズラを考えた子供のように楽しそうに暮人が言った。
大樹の目が、一瞬だけ揺らいで見えた。
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