ネガティブ女子とヘタレ男子
暮人の凄いところはここだ。
簡単に人の闇を見つけて不法侵入のごとく居座って、ソイツが欲しい言葉をさらっと言ってのける。
(アレが見間違いじゃなければ、大樹も欲しい言葉を貰えたのかな。)
「アンタが怖がらなくてと、天も千秋ちゃんも離れる気なんてないと思うよ。」
「…何も知らないお前に、何がわかるんだよ。」
怒りに満ちていた表情が、少しずつ変わっていく。少しずつ下がっていく眉から、大樹の弱い部分が剥き出しになっている事が分かった。
そんな力の抜けた表情は、いつもの笑顔より大樹らしさを感じさせるーーー
「何も分からねえよ。天とアンタの関係だって知らないし。そんな俺でも、アンタが二人の事大事なんだなって充分伝わったよ。だけどさ、悪いけど…それと同じくらい、爽ちゃんの事大事なんだよね。」
「オイ、風深さんだけかよ。」
「モチロンオマエノコトモダイジダヨー。」
「うわー…嘘っぽーい。」
暮人が話せば話すほど、大樹の表情は緩やかに崩れていく。いつもの茶番を入れれば、大樹はクスっと口角をあげていた。
「アンタがさ、爽ちゃんの事好きなら何も言わないよ。でも、今は違うだろ?今アンタが大事にしなきゃいけないのはーーー」
そんな大樹を見て、何かを悟ったように扉に足を向けた暮人。
「ヒロくんの、馬鹿っ…!」
ゆっくりと進んだ先から出てきたのは、チィだった。
「っ…チィ、ちゃん…。」
「何でここにチィが…。」
「後はお前らの問題だろ。」
視線だけで振り返り、またニッと笑った暮人は、俺達がチィに気をとられている間に居なくなっていた。
キュッと口を一文字に結び、言葉を閉ざすチィを置いて、暮人は「頑張れよ。」とこっちには届かない声で口を動かした。
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