ネガティブ女子とヘタレ男子
彼女が素直になった日
髪を上に纏められて、少し強めにピンで止められる。髪をしながら女の子達は私の顔にメイクを施していった。
(器用だな。)
動かないよう目を瞑り、姿勢を正して早30分。ドレスを着てピアスをつけて、小さなアメジストの石が付いたネックレスで首を飾る。
もう9月に入ったとはいえ、夏休みから続く夏日は、まだまだ秋の訪れを教えてはくれない。
「超綺麗(きれい)。さすが風深さんだね。」
「完成。」と女の子に声をかけられて、着替え用に取り付けられたカーテンの部屋から出れば、メイドや執事の格好をしたクラスメイトが綺麗綺麗と駆け寄ってきてくれた。
お礼だけ済ませて、まだ出てきていない相手を待つ。
携帯とにらめっこすれば、震えた携帯が表示したのは"千秋ちゃん"の名前だった。
「屋上で待ってます。」
一文だけ送られて来たそれに、私は急いで立ち上がった。
あれ以降気まずくて避けてしまっていた私に、千秋ちゃんからのメッセージ。嬉しくて教室から屋上へ向かえば、ふと嫌な考えも浮かんでくる。嬉しさと一緒に、今更とか何でとか、そんな考えが進む速度をゆっくりと落としていった。
重い足取りで向かった屋上には、文化祭だからか立ち入り禁止の札が立っていた。それを退けて、ドアノブへ手をかける。簡単に開いた扉は、強い風に包まれて勢いよく外へと開いた。
「さやたん、待ってたよ。」
いつからかツインテールを止めた千秋ちゃん。風に髪を靡(なび)かせて、私の方をみながらいつものように優しく微笑んだ。
(進まなきゃ。)
歩け、歩け。と念じても、いざ本人を前にするとネガティブな思考が勝(まさ)って足が震えてしまう。
ペタペタと上履きの音を響かせて、見かねた千秋ちゃんは私の目の前へ。
「お話、しよう。」
そう言って手を引く千秋ちゃんの笑顔は、久しぶりでもやっぱり可愛かった。
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