ネガティブ女子とヘタレ男子

「恋だよ。」と真剣な顔で言う千秋ちゃんは、少し私の方へ顔を近づけた。

(恋と言うには、私の気持ちはドロドロしすぎている気がする。)

映画やドラマ、少女漫画に書いてある"恋"には、もっと綺麗でキラキラしたものが描かれている。それを暮くんへ私が抱いているなんて…私には納得できなかった。

「…私も恋って何なのか分からない。私は柊くんを好きだったし、柊くんにフラれて辛かったけど…それより大事なものがあって、最近それを取り戻せたの。だから思うんだ。私の恋は本当はただの憧れだったんじゃないかって。あんな人になりたいなって思ったから、柊くんに惹かれたんじゃないかなって…そんな私が「恋だよ。」なんて言うから、信じられない気持ちもわかるよ…。ごめんね。」

私の気持ちを見透かしたように、千秋ちゃんはゆっくりと言葉を紡いだ。小さな体に優しく包まれた私は、されるがままになって話を聞いていた。

「ちが…っ。」

「でもね、これだけは知ってほしい。私は本当に、柊くんが好きだったよ。初恋は叶わなかったけど、楽しかった…柊くんの事を考えてドキドキしたり、話せたときは隠れてガッツポーズしたり。今思うと浮かれてたなって思って少し恥ずかしいけど…後悔してないよ。恋は綺麗で、キラキラしてる。ねえ、さやたんは?今さやたんの中にあるのは、本当にドロドロした気持ちだけ?柊くんの側に居たい、独占したいって思わない?」

子供をあやすようにトントンと背中を撫でられる。

「っ…。」

何度も囁かれる「大丈夫。」という言葉は、弱い私に少しずつ光を灯してくれた。

「怖がらないでいいんだよ。ドロドロでも良いんだよ。恋する女の子ってね、誰よりも可愛くなれるの。そんな魔法を気づかないフリなんて、絶対無理だよ。どんなに言い訳を見付けても、さやたんの心の中はきっと答えが出てるはずだから。」

暖かくなった胸には、もう隠し事なんてない。

「…わたし。」

「うん。」

「っ、私…暮くんが好き。」

「うん。」

「好きになって、良かったのかなっ…ッ。」

「人を好きになることに、許可も理由もいらないんだよ。」



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