ネガティブ女子とヘタレ男子
弱い者の答え
「教室に居ないと思ったらこんな所に居たんだ。探したよ、爽。」
初めて私たちがキスをした空き教室。私はそこで大樹を待った。思い出とはいかなくても、この教室であったことは、一ヶ月以上たった今でも簡単に思い浮かぶ。
同じ弱さを持った二つの瞳。
惹かれ合うのは、必然だと思えた。
「大樹、あのね。」
「早く行かなきゃ皆心配してるよ。」
「大樹。」
「さっ、会場へ行こう。」
差し伸べられる手は、貸すかに震えている。多分大樹は、私が今から言おうとしてる言葉を分かっているんだ。
(当たり前か。千秋ちゃんが私と話すことなんて、大樹は千秋ちゃんから直接聞けるもんね。)
いっこうに話を聞いてくれようとしない大樹の手を握り、顔を近づけて瞳を合わせた。
あの時不安で揺れていた瞳には、意思の強い光が灯っている。そこに映った私の瞳も同じ、意思のある瞳で大樹をじっと見つめていた。
(ああ、そうか。大樹も強くなろうとしてるんだね。)
「爽…俺は、」
「大樹、聞いて。私…強くなりたい。千秋ちゃんみたいに、強くなりたい。強くなって、胸をはって暮くんの元へ行きたいの。」
「嫌だ。」
「…私、暮くんが好き。」
「っ…。」
お互い強く手を握り合う。男性と女性で違う握力は、少し痛いけれど…大樹が何かに怯えている事を教えてくれるその痛みは苦 では無かった。
きっと大樹は、二人に本当の意味で救われた。二人だけで良いと言っていた瞳が、こんなに力強く私を離したくないと訴えている。本気で私に気持ちをぶつけてくれているのが、伝わってくる。
ーー未来へ歩み始めた事へ、感じる恐怖や不安。
未来へ進むということは、弱い者を迫害する大人の世界へ足を踏み入れるということ。でも、嫌でも私達は大人になってしまう。そんなとき、辛いと、嫌だと泣きわめいてすがり付く場所は、きっと私達ではない。
「爽…俺は君が好きだよ。本当に、君が好きで好きで離したくない。こんな狡(ずる)い俺を許して…。チィちゃんもてんちゃんも取り戻した。たくさん悪い事した俺を、二人は許してくれた…ずっと三人の関係は崩れないって。大丈夫だって。だからかな…全てを欲しがる、欲張りな俺だから君は嫌うの?欲をはらなければ、側にいてくれるの?」
「…違うよ、大樹。私は大樹の事嫌いになんてならない。あなたは私、私はあなた。私達は弱さゆえに求めあってしまっただけ。……私を求めてくれてありがとう。でも、ごめんなさい。私は…暮くんの側に行きたいの。」
「どうして、彼は君にトラウマを…、」
「うん。その通りなんだけどね…でも、何でかな。昔と変わらない笑顔が頭から離れてくれなくて。意地悪でも、優しく接してくれようとした彼が可愛くて大好きだなって思えちゃう。恋って不思議だね。…それに気付いちゃったから、私は強くなりたい。ドロドロとしたものを、キラキラさせたいの。」
「待って、俺を、置いていかないで…。」
「あなたを置いていったりしないよ。だって大樹も気付いてるでしょ?あなたの中に生まれた強さ。守りたいもの。」
「っ…。」
「ね、二人で強くなろう。全部とはいかなくても、守りたいものを守れるように。未来(前)を向こう。私達はもう一人なんかじゃない。慰め愛なんて、もう必要ないんだよ。」
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