ネガティブ女子とヘタレ男子
柊暮人
俺は、昔から素直じゃない。
「あー…可愛かった。」
「くれとー。現実に戻ってこーい。」
さっきまで腕の中に居た人物へ想いを馳せながら、天(そら)に買ってきてもらった昼飯を頬張る。
購買のカレーパン。
スパイスが効いた少し辛味の強いルーに、よく煮込まれた野菜が溶け込んでまろやかな甘さを醸し出す。おまけにゴロゴロと入った肉は噛みごたえ抜群で、校内一の人気を独占する数量限定商品だ。
普通に買いに行けば、絶対手に入らない代物。
それを普通に買ってこれるコイツ、蒼野天(あおのそら)は、見た目の良さとその持ち前の性格の良さを購買のオバチャンに気に入られて、見事にオバチャンキラーと化した。
「で、なんだっけ。昔暮人がいじめてた幼馴染みと再会出来たプラスDIMEまで交換できたんだっけ。」
「誤解が生まれるような言い方はやめろ。…昔から、好きだったんだよ。」
「へー。」
「聞いたくせにもっと興味を持てよ!」
俺の机にパンを置いて、前の席にふてぶてしく座る天。辛いものが苦手な天は、メロンパンを口いっぱい詰め込んでいた。
甘いメロンの香りと、スパイスの効いたカレーパンの香り。
こんなに近くに美味しく香る物があっても、彼女を思い出すだけで、それらは視界に入らなくなり、己の嗅覚は彼女から香った女の子らしい匂いを思い出させる。
「何か回想が変態みたいだぞ、お前。」
「うっせ。」
「これで頭良いんだから、世の中ほんと俺に厳しいよなぁ。」
「天は勉強しないから馬鹿なんだよ、ばーか。」
「初恋の女の子を真似して勉強し始めた奴に言われたくありませーん。」
山盛りあったパンは、育ち盛りの男二人が食べてしまえばあっという間で、足りない俺は購買へと席をたった。
オバチャンキラーを連れていけば余った食い物も貰えるかもしれないけど。今は一人、携帯に表示された、新しく追加された名前を眺めながら喜びに浸りたかった。
(爽ちゃんは何食ってんのかな。親が離婚してって言ってたけど、昼飯とか…やっぱ手作りなのかな。)
調子に乗った俺は、トーク画面を開いて文字を打つ。送信するほどまだ勇気は持てないが、怖がられてばかりいたあの頃より普通に友達として近くに行ける今を純粋に喜んだ。
嬉しさからか軽い足取りで辿り着いた購買には、ピョンピョンと上下に揺れるツインテールの女の子がいた。
(あれは…よく爽ちゃんの隣にいる子、だよな。)
そっと隣まで行き、様子を伺う。
パンを悩んでいるその子は、カレーパンとメロンパンを手に持っていた。
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