ネガティブ女子とヘタレ男子

暮人と爽


ハッハッと息が上がる。スカートから白いタキシードへ着替えたからか、さっきよりも幾分走りやすかった。

「あの三人、ほんとお人好し過ぎだよな。」

思い出すだけで笑いが込み上げてくる。それは、俺が着替える少し前の事。教室へ着替えに戻れば、待ってましたと数人の女子と男子が俺を囲んできた。

「私達、蒼野くんと八雲さんと横場くんのファンクラブの者です。」

「へ?」

「この度、あのお三方からの柊くんにタキシードを着せると言うお願いを叶える為、ずっと待ってました。」

「は、はぁ…?それは、お待たせしました。」

「では、脱いでください。」

「えっ、えええええ!」

ズイズイと距離を積めてくる男子に強制的に脱がされた。下に体操服を着てたから良かったものの、女子の前でパンツ一丁になった時コイツらはどうしてくれたんだと真っ赤になりながら顔を隠した。

用がすんだ男子達はササッと離れていく。次に近づいて来た女子から、白いタキシードを着てこいと渡された。

天達が何故彼女達に頼んだのかは分からないけど、多分、着る事に意味があるのは分かった。

「柊くん。」

カーテン越しに一人の女子が話しかける。返事をすれば、「着替えながら聞いてください。」と違う声が答えてくれた。

「私達、小学校から三人と一緒だったメンバーもいて、三人が変わってしまった理由も知ってるの。もちろん、高校からファンクラブに入った子もいるけど…それでも、最近の三人の雰囲気が変わったのは、皆分かったわ。それがあなたのお陰と言うことも。だって、三人が私達を頼ってくれたのよ。『俺達は会場に行かなきゃいけないから、代わりに暮人が来たらこれを着せてくれないか。』って。三人の世界しか彼らにはなかったのに、初めて私達を認識してくれた…私達には、それが嬉しかった。」

『あなたのお陰よ、ありがとう。』

シャッとカーテンを開ければ、そこにいた奴らは皆居なくなっていた。

(ありがとうとか、俺じゃねえよ…。)

アンタ達がお礼を言わなきゃいけないのは、アイツら本人だ。俺はなにもしてないし、実際変わってるのはアイツらが頑張ってるからだ。それを第三者のアンタ達が教えてやれば…さらにアイツらは頑張れると思うよ。

「俺こそ、ありがとう。」

(よっしゃ、気合い入った。)

たくさんの人に助けられて、人は成長していく。16の俺達は、まだまだ知識も経験も少なすぎる。そんな中で出会ったアイツらも、ファンクラブの人達も、俺にたくさんの事を教えてくれた。

(俺達がどんなに嫌がっても、いつか大人になるんだ。)

また走り出した俺を、見送った奴らに気づかないフリをして。聞こえる様に礼を叫んだ。

(アイツらは、最初から三人だけじゃなかったんだ。)

嬉しくて頬が緩む。ニッと上げた口角は、動かす足をさらに速くした気がした。



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