ネガティブ女子とヘタレ男子
笑顔の爽ちゃんは、突然俺に頭を下げた。
「…暮くん、ごめんなさい。」
屋内用を履かされたのか、カツカツと高い音を立てる白いヒールは、爽ちゃんが歩く度に音を主張する。
白い肌に、白いドレス。
髪を纏めて白い薔薇の花飾りをつけた爽ちゃんは、本物のお姫様の様だった。
「…怒ってるよね。私が、嘘ついたあの時から、ずっと暮くんや皆を避けてしまった事。」
近くに来た爽ちゃんに、ずっと見惚れてしまっていた俺は、すぐに否定することができなかった。弱々しく下げられた眉が、後悔の色を伺わせる。
「暮くんが、たくさん優しくしてくれようとしてたこと…本当は知ってた。だけど、弱い私は千秋ちゃんの為とか、勝手な理由をつけて暮くんから距離をとってた。廊下ですれ違った時も、教室を覗きに来てくれてた時も、私から話に行けば良かったのにね。そしたら、もっと早く暮くんの優しさを知れたかもしれないし、千秋ちゃんに嘘をつかなくてよかったのに…。」
「…。」
「ごめんなさい。あの頃から、私何も変われて無かった。トラウマを理由にして、一人に自分からなってた。ずっと、暮くん一人を悪者にしてた。本当に…ごめんなさい。」
くるっと上に上がった長い睫毛が、ふるふると震えている。少し低い位置にある髪飾りにソッと触れて、髪を飾るティアラから垂れるベールへ口づけた。
俺の行動を大きな瞳を丸くしてみていた爽ちゃんは、チークで彩られた頬をさらに赤くしていた。
「爽ちゃんは凄いね。昔も可愛かったけど、爽ちゃんが努力したから、今こんなに綺麗で可愛くなってる。…階段下でさ、爽ちゃんと再会できて…本当は俺、嬉しかった。なのに恥ずかしくてあんな態度とってごもんな、怖かったよな。俺さ、爽ちゃんの笑顔が好きだった。ずっと爽ちゃんの笑顔を見たくて、もっと構ってほしくて、意地悪な事たくさんした。それをさ、ずっと後悔してる…だから、爽ちゃんは謝らなくていいよ。爽ちゃんを臆病にしちゃったのは、俺なんだから。爽ちゃんはだいっ嫌いって、怒っていいんだよ。」
真っ赤な頬に触れて、微笑み返す。ちゃんと笑えてるかな。なんて不安になるくらい、爽ちゃんを目の前にして素直になるのは緊張して、いつもの強がる癖がでないように優しく優しく触れた。
すると爽ちゃんは、頬に触れた手にすり寄って微笑んだ。
言葉には出していなかったけど、その微笑みは「怒ってない、大丈夫だよ。」と俺に伝えてくれているようだった。
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