ネガティブ女子とヘタレ男子
「…。」
(ま、眩しい…っ。)
ニコニコと笑う爽ちゃんを、こんな長く隣で見続けたのはいつぶりだったか…。幸せを噛みしめながら、余計なことを考えないように、爽ちゃんの頬っぺたをぷにぷにとつまんだ。
「…たくさん暮くんを怖がったりして、ごめんね。もう怖がったりしないから、改めて、仲良くしてくれる…かな。」
「もっ、もちろん…!」
裏返った声をバカになんてせず、爽ちゃんは天使の笑顔で笑った。
(いや、もしかすると女神かもしれない…。むしろ女神だろ。)
表面上ではニコニコと笑いながら、心のなかでガッツポーズや雄叫びをあげる。そんな俺の心の内を知らない爽ちゃんは、嬉しそうに「ありがとう。」とまた笑った。
「暮くんとお友達に戻れるなんて、嬉しいな。」
「…。」
(友達…。)
『じゃあさ、改めて友達にでもなれば』
天といつか話した言葉が頭のなかで木霊する。
(友達。そうだ、なりたかったじゃないか…。それで、誘うんだ。文化祭一緒に回ろうって。でも、今爽ちゃんには横場がいて…俺と回ってくれるかもわからなくて。)
「暮くん、どうしたの?」
「…爽ちゃん、ごめん。やっぱ俺、爽ちゃんと友達になれないや。」
頬に触れていた手を顎へ持っていき、角度を付けて唇を合わせた。触れるだけのそれに、一瞬フリーズした爽ちゃんは、口を押さえて顔をさらに顔を赤くした。
何度目かの爽ちゃんの赤面を見て、俺はやっぱり友達なはなれないと実感した。
(この顔を、独占したい。爽ちゃんを、独占したい。)
「俺、爽ちゃんが好きだ。横場と付き合ってても、諦めないから。絶対振り向かせて見せるから。」
折れてしまいそうな細い体を、ギュッと抱き締めた。爽ちゃんの体からは女性の甘い香りと、嗅ぎ慣れたラベンダーの香りが混ざりあってクラクラと魅了される。ギュウと抱き締めながら雑念を飛ばせば、ゆっくりと後ろに手が添えられた。
「さ、爽…ちゃん…?」
無言のまま抱き返してくれる爽ちゃん。
胸に埋もれた顔は、上から見下ろすだけではどんな表情をしているのかさえ分からなかった。
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