奇跡? ペア宿泊券と強引な天敵課長
だが驚いたことに、草壁課長の紳士ぶりはこれだけに留まらず、ホテルに着くと更に拍車がかかった。

いつもの、あの、嫌味で意地悪な天敵課長は何処へ! と双子存在説まで思い浮かべたほどだ。

まず課長はチェックインを済ますと、私の腰にさり気なく手を添え、ホテル内の高級ブティックに誘導した。

「エッ、ちょっと……」

シーッと唇に人差し指を当て、ゆっくり首を横に振る。

「せっかくだから思いっ切り楽しもう。時には遊び心も必要だ。君にはその権利がある。だろ? 勤勉なお姫様」

彼の言葉が呪文のようにジワッと心に沁み、魔法がかかる。

思い返せば生きるためとはいえ、仕事漬けの八年だった。
『親孝行したいときに親は無し』の言葉通り、両親を不慮の事故で亡くしたのは入社直前のことだ。

父母がホテルを予約してくれたみたいに、働いたお金で、これからいろいろプレゼントしようと思っていたのに……。

だから遊べなくなった。心から楽しめなくなった。二人に申し訳なくて。

「……楽しんでいいの?」
「当然だ」

課長は躊躇なく返答する。
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