奇跡? ペア宿泊券と強引な天敵課長
「君がくじに当たったのは運が良かったのかもしれないが、それこそが奇跡だ。今日はクリスマスイヴ、これから起こることは全て奇跡のなせる業、とでも思っておけ」

課長は魅惑的なウインクを一つよこすと、ブティックのマダムに「よろしく」と言い、ソファーに腰掛ける。

着せ替え人形のように、着替えを何度か繰り返す。こんなシーンをドラマや映画で見たことがある。

マダムが「それがおよろしいのでは」と微笑んだのは、濃紺のシンプルなワンピースだった。仕立ての良さと上質な生地が体のラインを美しくなぞり、鏡の中の私は、自分でも驚くほどスタイル良く見えた。

これもイヴの奇跡? まさかね。

「それに、こちらのアクセサリーと靴を合わせましょう」

いったい幾らするのだろう、と思いながらも、無駄遣いせず、ズット貯めていた通帳の額を思い出し、今日ぐらいいいか、とネックレスを手に取る。

フィッティングルームから出ると、課長が一瞬目を見開いた。

「フーン、なかなかいいね。マダム、ありがとう。では、次へ行くとしよう」
「課長、お金まだ払っていません」

私の言葉を無視して、課長は店を出る。

「大丈夫だ。部屋につけてもらった」

ということは、帰りでいいってこと? このホテルのシステムが分からないので、課長の言葉を信じて、彼と共に行く。

後で知ったのだが、流石、紳士だ。この時、既に支払いは済んでいた。
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