魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時
今日はクリスマスイブだ。現在、二十一時。
ホテルのフロントの前は、チェックインを待つ人で賑わっている。
しかし毎年のことながら、見渡す限り……カップル、カップル、カップル……時々家族連れ、老夫婦。
きっと素敵なレストランで食事なんかしちゃって、充実した時間を過ごしてきたのだろう。皆一様に幸せそうな笑みがこぼれている。
きっと、これから……あたたかくて、愛おしい物語がたくさん生まれるのだろう。いつもなら、小さな端役だろうとその物語を彩れることをうれしく思う。
でも今日ばかりは、物語の主人公である彼らが羨ましい。
私だって大好きな彼と一緒に煌びやかなイルミネーションの輝く街を手を繋いで歩いて、素敵なレストランで食事をして、夜景の綺麗なホテルの部屋で彼の腕の中で幸せなひと時を過ごしたかった。
笑顔を浮かべてチェックインの作業を進めながら、銀縁メガネをかけた理知的な横顔を思い出す。
私にキスをするときに、長い指でその眼鏡を外す仕草が好き。甘い声で私の名前を呼ぶ声が好き。
私を見つめる綺麗な瞳も、私を包み込む優しい腕も好き。
ああ、会いたいな。彼に、会いたい。
やばい、泣きそう。仕事中なんだから、しっかりしなきゃ。