魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時

このお客様が予約しているの、スウィートルームだ。薔薇の花束を持っているし、プロポーズかなにかだろうか。

「僕は予約を代理で行っただけなんです。泊まるのは僕の兄とその恋人なんですが、名前の記入は兄の名前をしたほうがいいですよね? 実は僕、花屋で。これも兄に頼まれたんですよ。愛おしい恋人に素敵なサプライズをしたいそうで」

予約の代理は珍しいことではない。その言葉に顔を上げた私は、花束を私に見せるその人に安心させるように笑顔でうなずいた。

「ええ、ではお兄様のお名前のご記入をお願いします。ご兄弟、仲がよろしいんですね」

クリスマスイヴにお兄さんのサプライズのお手伝いをするなんて、随分仲のいい兄弟だ。

「ええ、まあ。僕も妻が出産で入院中じゃなければ家族を優先するところなのですが、そんなわけでひとりのクリスマスなのでね。兄に協力することにしたんです。あの堅物の兄がサプライズまで計画して、あんなことまで言わせるほど夢中にさせた女性に興味もありましたし」

クスクスと笑ったその人の左手の薬指に、プラチナのリングがはまっていることに気がついた。

「彼女が仕事になったと聞いたときの落ち込みようも面白かったですしね。兄の意外な一面を知って、兄弟仲が深まりました。聞いていたとおり、すごく素敵な方で、安心しました」

言葉の意味がわからずに、首を傾げる私にその人はニッコリと微笑んだ。

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