魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時
朝、九時。勤務交代を頼まれた後輩にお礼とともに何度も頭を下げられた私は、仕事を終えて更衣室に入った。
まとめていた髪を下ろして、制服から私服に着替える。一度家に帰るつもりでいたから、お姫様には程遠いジーンズにカットソーというなんとも味気ない格好だ。
彼が私を待っているのだと思うと、どうしようもなく胸が高鳴る。きっともう、魔法にかかっているのだ。
鞄を抱えて、職員用の階段を使って二階まで上がってからエレベーターに乗る。他のスタッフに見つからないようにと、コソコソしながらスウィートルームのあるフロアに立った私は、大きく深呼吸を繰り返してから歩き出した。
初めてデートをしたときのようにドキドキする。緊張して、ガチガチな私に初めて笑顔を見せてくれたあの瞬間、私は彼に恋をした。
笑うと少し幼くなる私の大好きなあの笑顔は、あの魔法使いと少しだけ似ているかもしれない。
そのフロアの一番奥にあるスウィートルームの前に立って、呼び鈴を押す。
変に緊張して視線を下に向けていると、思いのほか早く開いた扉の中に腕を掴まれて引きずりこまれた。