魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時

戸惑いの声をあげる間もなく、抱きすくめられる。顔を上げると、トレードマークの眼鏡を外している彼と目が合った。

「要、おかえり。寂しかった」

初めて耳にするそのセリフに目を丸くしていると、唇を塞がれる。いつも冷静な彼らしくないその行動に、私は驚いて固まってしまった。

硬直している私の頰に、彼の唇が触れる。そのまま顔中にキスされて、ますます驚いてしまう。こんなことをされたのは初めてだ。

「や、靖明さん」

戸惑いの声をあげる私の頰を、彼の手が包み込む。

「要、本当はいつもこうしたいと思っていた。俺は、要と出会って随分寂しがり屋になってしまったみたいだ。いつも要を家に送るたびに、離れがたくてたまらなかった。もう違う家に帰るのは嫌なんだ。俺と、結婚してくれないか?」

その言葉に、涙があふれた。言葉が出てこなくて、コクコクと何度もうなずく私に靖明さんが優しく微笑む。

「ごめん、なさっ。私、靖明さんに、たくさん、我慢……させてた?」

言葉を振り絞るようにそう聞いた私に、靖明さんは眉を下げて首を横に振る。



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