魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時
「いや、それはいいんだ。自分のことよりも、人のことを優先する優しい要を俺は好きになったんだから。要が俺のことを大切に思ってくれていることは、わかってる」
それを聞いて、ホッとする。でも、きっと寂しい思いをたくさんさせていたんだ。もっともっと大切にしていこう。この仕事も好きだけど、靖明さんのことはもっと好きだから。
「そういえば靖明さん、眼鏡はどうしたの?」
眼鏡がないと部屋の移動も難しいくらい目が悪いはずなのに、どうしちゃったんだろう。
「ああ、今日はコンタクトにしたんだ。いつも要の表情が見えなくて困ってるんだと弟に話したら、コンタクトにしたらいいだろうって言われてね。目からウロコとはこのことだな」
私を抱き上げた靖明さんに、そのままベッドに押し倒される。え、表情が見えないって、そういうときの? そんなの、見えなくていいのに。
「今日は、要の全部を見れるな。愛してるよ、要」
どうやら魔法使いは、王子様に余計な入れ知恵をしていったらしい。頰を赤らめる私に、靖明さんが微笑む。
「かわいい、要。いつもそんなかわいい顔をしていたんだな。それを見逃していたなんて、損した気分だ」
恥ずかしくてたまらないけど、彼のこんな蕩けそうな笑顔を見れるならすべてをさらけ出すのも悪くはない。
普段の私は、様々な物語の端役だ。私はお姫様よりも従者に憧れた。
だけど今日だけは、王子様の腕の中で、お姫様になろう。
魔法の解ける、明日の午後十二時まで。私と彼の物語は、ハッピーエンド以外にありえない。
「靖明さん、愛しています」
彼の背中に手を回した私の唇に、優しいキスが降ってきた。