私のご主人様

旦那様は、私を見ると一瞬眉を潜め、奥様を見る。

『百合花、その子は見習いとして来るんだ。専属にはできん』

『え?琴葉ちゃん、見習いなの?…でも、そうならなおさらいいじゃない。琴葉だって私についた方が勉強できることも多いでしょう』

奥様の返しに旦那様はうなる。え、そこはもっと対抗してください!旦那様!!

『お、奥様、差し出がましいようですが、琴葉はまだお坊っちゃまと同い年です。まだ掃除すらままならない未熟者ゆえ、どうか今しばらくはメイド長の元で働かせていただけないでしょうか』

まさかのお父さんから助け船に思わず黙ってしまう。

ご主人様の言うことは絶対。逆らって、機嫌を損ねることだけはするなと口酸っぱく言っていたのに…。

どうして、お父さんはそこまでしてくれるんだろう…。

『宮内、あなた娘を私に仕えさせることが不満なの?』

聞こえてきた声に我に返る。低い音に、硬い声音。怒っていると嫌でもわかる。

視線だけを奥様に向けると、やはり笑顔が消えた奥様がいる。

『滅相もございません!しかし、娘は未熟者ゆえ、奥様に多大なるご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。ですから…』

『一人前の使用人は、主人に寄り添う者。そうでしょう。宮内』
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